次の一年へ

2011年3月11日 午後2時46分。

忘れられない。鮮明な映像が残っている。

古いオフィスビルのフロアの揺れ。デスク、チェア、書類、筆記具、PC、モニター、プリンター、ブックシェルフ。様々なものが異常な音を立てて揺れていた。

飛び出した屋外で、歩道に座り込む人々、余震の度に悲鳴が飛び交う。

徒歩で帰る人々の無言の行列、空っぽのコンビニ、多摩川の橋の上、綱島街道沿いの暗闇。

繋がらない子ども達の携帯にいらつく自分の姿。

反面、まったく覚えていない細部。

9年目か。

自分も含め被災の当事者でない人間のどれだけ多くがあの震災の影響を受けたのだろうか?

様々な状況下での、それぞれの人生があったと思うが、私のように「背中を押された」という方々も少なくないのではなかろうか?

日本の文化の場合では、お正月と春四月が一年のスタート、という心持ちが自然なことだと思う。

毎年3月11日は、生きてあることに感謝する日として刻まれた。そしてもっと生きなければ、この先一年を大事に生きなければ、と思いを強くする一日となった。

生きている限り

東京で仕事をして、横浜に住んでた自分は、何一つ無くしたわけではない。

子ども達の無事を確認できた時点で、被災から免れたのだ。

それでも、2011年3月11日は自分が生きている限り記憶の中に刻み込まれる。

人生の、残り時間のカウントダウンが始まった日。

思考が猛スピードで動き出し、一気に決断へと向かった日。

背中を押されてしまった。自然の脅威に。

そしていま、自然のまっただ中で、天地の采配に文句を言えない仕事をしている。

勝てないことはわけっているけど、負けたくない気持ちも強い。

若い頃から何をやっても人より劣っているのが常だったけど、もしかしたら両親からいただいた能力は「負けず嫌い」という気質かもしれない?ちょっとやそっとじゃ、諦めないのだ。

農作業も徐々に忙しくなる。

自然には絶対勝てない。でも負けたくない。だから共存しなきゃ。自然の声を聞かなきゃ。

8年目の3月11日。良きワインのために、今年も葡萄づくりに最善を尽くす。

新しいシーズンが始まっている。